Talk:2006 Interview with Hiromichi Tanaka, FFIII

http://dengekionline.com/soft/interview/ff3/


電撃ドットコム > 電撃オンライン > インタビュー > 『ファイナルファンタジーIII』 SOFT  

『ファイナルファンタジーIII』インタビュー!  見た目や一部の設定は大きな変化を遂げつつも、ファミコン版時代の雰囲気を色濃く残すDS版『ファイナルファンタジーIII』。今回、そのDS版『FFIII』を手掛ける2人のキーパーソンにお話をうかがった。ファミコン版を制作した田中氏、そしてファミコン版に強い思い入れをもつ浅野氏が本作の開発秘話を語る!! ●16年の沈黙を破ったのはDSの体験会での発表がきっかけ?

――ファミコンとスーパーファミコンで発売された『FF』シリーズとしては、唯一どのハードにも移植されなかった『FFIII』ですが、どういった経緯でDSでリメイクされることになったのでしょうか? 田中弘道氏(以下、田中。敬称略):2004年10月に任天堂さんが開催されたDSの体験会で、当社から『FFIII』をDSで移植するということを発表しましたが、実は自分もあのとき初めて知ったんです。 ――ということは、あの発表から企画がスタートしたんですね? 田中:リメイク自体は、それ以前から別の機種で浅野たちと企画していたんです。ファミコンのグラフィックをそのまま移植するというのは厳しいし、かといって、今風に描き直していくとなると、相当膨大な量があるので、ほぼ1から作り直すのと同じになってしまいます。それなら思い切って3D化した方が、演出面とか見た目の面でも有利なんじゃないかなと。それに16×16のドットを今風に描き起こしたキャラがピョンピョン跳ねたり、直角に動くイベントを作っても違和感があると思いますし。まぁ、やるんだったらちゃんとやろうねみたいな話を浅野としていたんですけど、手違いにより我々の知らないところでDSタイトルとして制作するということになってしまいビックリしました(笑)。 ――もともと、やるんだったらGBA版『FFI・II』などのような2Dではなくて、3Dで作りなおすというのが念頭にあったと。そしてハードがDSに決まったワケですね。 田中:16年の間に1度でもリメイクされていれば、2Dでも違和感がなかったと思うのですが……。例えば、ご存知の通りワンダースワンカラーで移植を試みたこともあったのですが、技術的な問題や容量が足りなくなって完成までには至りませんでした。あのとき完成までこぎつけていれば、『FFI』や『II』などのように、それを移植できたのでしょうけどね。『FFIII』は、16年もの長い時間が開いてしまったので、そこは、なんというか、こだわりみたいなものもありますし、『FF』シリーズっていうものの僕らなりの意味というのが、当時発売されている最先端のハードで、いちばん性能を使いきったものを作っていきたいというのが常にあったので、今DSというハードを考えたとき、3D化するのがふさわしいという思いもありました。 ――グラフィック以外にも、戦闘のバランスやシステムなど、ファミコン版から変わった部分も多いようですが、今回のリメイクの際のコンセプトやテーマというのは? 田中:あまり身構えて、『FFIII』はこうじゃなくちゃいけないというのはなかったですね。色合い的なところでは、当時、ファミコンは黒込みで4色しか使えませんでしたが、その制限されたなかで表現していた色というのがありました。例えば海や空の青さ、白いイメージ。そういったところを今風にリアルに描き変えるのではなくて、当時のポップなイメージを残したいというのは、最初にイメージアートを決めていくときに、アートディレクターの相場(良祐氏※1)と話して決めました。それがそのまま形になっていった感じですね。キャラの方も、いろんなジョブキャラがありますけど、そのイメージも、当時2Dで小さかったのですが、それを3D化するにあたって、それぞれのキャラがもっている魅力を大事にしたかった。DS版の開発当初、社内のデザイナーが手一杯でどうしようか困っていて、最初は吉田(明彦氏※2)経由で、社内にキャライラストを描いてくれるデザイナーを探してもらっていたんです。ところが、ちょうど吉田の『FFXII』が一段落しそうだったので、彼にお願いして担当してもらうことになった。吉田は『FFタクティクス』のときにジョブキャラを一通り描いているので適任でしたし。 浅野智也氏(以下、浅野。敬称略):変えたところというのであれば、手触り感ですね。自分にとって『FFIII』というのは、小学生時代にリアルタイムでプレイしてクリアできた初めてのRPGでしたので、とても思い入れが強いんです。ファミコン版の遊び心地は残さないといけないと、慎重に制作していました。

※1 相場良祐氏:DS版のアートディレクター。『FFXI』や『クロノクロス』でもデザインを担当していた。 ※2 吉田明彦氏:『FFタクティクス』や『FFXII』などのキャラデザイナー。DS版ではジョブのキャラデザインなどを担当。 ●DS版『FFIII』のファミコン版との違い&新要素について

【DS版の新要素(1):物語や設定など】 ――DS版の発表の際に、目を引いたのが主人公たちに名前や生い立ちなどが設定されていて、ファミコン版に比べてキャラクター性がついているということなんですが、やはりそれは今の時代にあわせて変更したものなんですか? 田中:主人公たちの設定などは、ファミコン版『FFIII』を作っていた当時から入れたいと思っていたことなんです。当時は、『FFII』を作るときは『I』の反省から物語やキャラ重視の方向性に進み、同様に『III』では『II』と違う方向性で主人公たちが無個性になってしまった。ファミコン版『III』のキャラについては、『II』のように主人公たちに個性があれば表現できていた部分がどうしても表現しきれなかったんです。当時表現したかったことが、今回、個性をつけることで明確になっています。完全にリメイクするなら、そういったあやふやになっていた部分は、筋を通しておきたいと思っていましたので。 ――最近の風潮として、物語性を上げるためにというワケではないんですね。 田中:そうですね。ただ、原作のイメージとは絶対に離れないようにしたかった。シナリオやイベントを作り直す過程でも、結構いろんなバリエーションがあったんですよ。もっと演出面が凝っていて、キャラクターたちがセリフをしゃべりまくるようなシナリオが上がってきたのですが、あまり変えてしまうと元の『FFIII』ではなくなってしまう。それなら普通に新作を作った方がいいということになってしまう。今回はあくまでファミコン版『FFIII』の移植作品ですから。それに、リメイクするにあたって坂口(博信氏※3)さんに電話で相談したんですよ、「どうする?」って(笑)。坂口さんも「あんまり変えない方がいいんじゃない?」とおっしゃっていたこともあって、物語の基本はそのままの味付けで行くことにしたんです。だから、ファミコン版そのままのシンプルなイベントやセリフも出てきますよ。 浅野:意図的に残している部分も多いですね。 田中:今風に作っていくと、どうしてもイベントの中でキャラ同士を何度も会話させて、演出を大事にしていこうという風になってしまう。今回は、手は加えていてもキャラが1つのイベントでしゃべるセリフは必要最小限で、当時のイメージを壊さないように気をつけています。 ――今回のDS版は、当時やりたかったことをわかりやすく再構築するという感じなんですね? 田中:ええ。説明不足だったり、あやふやになってしまった部分の筋を通しつつも、元の『FFIII』と同じものに仕上げています。 ――序盤は“ルーネス”が1人で進んで行くなど大きく変わっていますが、中盤以降はストーリーや展開は基本的には変わらないわけですか? 田中:序盤の4人同時スタートをやめたのは、当時、あまりにも唐突に始まる展開は違和感があったものですから。それに最初に4人分の名前を考えるのは難しいんじゃないかと。プレイしながら、それぞれのキャラクターの性格が徐々にわかっていけば、名前をつけやすいのではないかなというのもありました。 ――物語を変え過ぎずわかりやすくするという過程で、演出を増やす増やさないなど、いろいろ議論があったと思うのですが。最終的には、それは田中さんのさじ加減なのでしょうか? それとも浅野さんのさじ加減なのでしょうか? 田中:大まかな方向性は最初に指示しましたが、最終的には浅野が中心になってチェックしていってますね。 浅野:とはいいつつ、田中も一語一句すべてチェックしてますけど(笑)。開発序盤で方向性を定めるときに苦労しましたが、1度決まってしまってからは順調に進んでいきましたね。

※3:坂口博信氏:いわずと知れた『FF』シリーズの生みの親で、現ミストウォーカー代表取締役。田中氏とは大学の同級生。

【DS版の新要素(2):ジョブや戦闘のバランス】 ――今回、ジョブのシステムやバランスを再調整していますけど、システム部分の変更の苦労というのは? 田中:当時、ラストダンジョンでは、みんな賢者、忍者でクリアするという片寄りが気になっていたんです。それは狙ってやったことではあったのですが、今思うとやり過ぎだったかなと。せっかく、これだけジョブ数があるのに、最終的に忍者と賢者に集約していってしまうというのはもったいないなと思いまして。好きなジョブでクリアしたいと思うプレイヤーも多いはずですから。こういう考えは、『FFXI』の影響なのかもしれませんが。ファミコン版は、初期のジョブの黒魔道師などから、最終的には導師、魔人というように、下級、上級ジョブという概念がありました。そこも今回、忍者と賢者を他のジョブと並べるのであれば、全部のジョブの能力を並べることはできないものかと試行錯誤しました。 ――ということは、例えばモンクと、その上位ジョブにあたる空手家の場合、モンクにも空手家にはないメリットがあるという形になっているのですか? 浅野:各ジョブ固有のアビリティを持たせることで個性が出るようにしています。 ――上位職にしなくても、初期のジョブでも最後まで進んでいける? 田中:システム的に暗黒の洞窟など、ジョブチェンジの必要が出てくる場所もありますけど、基本的には自由にジョブを変えて遊べるのではないかと思います。さすがに23ジョブは多すぎるので、イメージが似通ってくることもあると思いますが。そういう場合は、ジョブの見た目で選んでください。 ――ファミコン版では、ジョブチェンジの際にキャパシティポイント(CP)が必要でしたが、DS版ではCPを廃止して、いつでもジョブを変更できるスタイルになったのも、下級と上級という考えがなくなったためですか? 田中:CP制の場合、最終的にCPが余ってしまうんですよ。そうすると、結局はポイントがないのと同じ感覚でジョブチェンジできてしまっていた。今回はそれよりは、もう少し戦略的にジョブチェンジしてもらおうかなと考え、CP制を廃止する代わりにジョブチェンジ後にペナルティ期間を発生させるようにしました。CPと違ってスグにその場で切り替えられるのではなく、腕ならしをしないといけないので自由度が多少なくなりますけども。ただ、もうすぐボス戦だから、今のうちにジョブチェンジしておこう、といういうように、事前に考えてジョブチェンジする必要性が出てきますね。 ――ペナルティは、ジョブの属性が対極にあるものほどペナルティの期間が長くなると? 田中:属性がまったく逆でかなり離れたジョブの場合は、その途中にあるジョブを経由していけばペナルティ期間が少なくなりますよ。とは言っても、数十回も戦闘をしなくちゃいけないというほどのペナルティはつけてませんけど。 ――変わったばかりだと、ペナルティは実感できるほどなのでしょうか。たとえばアビリティが使えないとか、攻撃がぜんぜん当たらないとか。 浅野:そこまで大きなペナルティではありません。 田中:ファミコン版の『FFIII』が難しいということで、DS版もかなりハードな作りにしようとしてまして、ギリギリなボス戦が多くなると思うんですよね。各ジョブの組み合わせや能力を最大限に生かさないと、苦戦することになります。 ――ということは、ペナルティ期間中はボスに挑まないようにしないと……。 田中:結構厳しいかもしれませんね。ペナルティ期間は、ジョブを自由に変更できるというコンセプトとは逆になってしまっていますが、その分、戦略性が増していると思っています。 ――ジョブチェンジをせずに、1つのジョブを使い続けているときのメリットは? 浅野:熟練度が上がるとアビリティの効果に違いが出てきます。例えばシーフの「盗む」の確率などが上がったりします。 ――熟練度の低い場合と高い場合では、かなり差が出てくる? 浅野:はい。出てきます。それに熟練度をつんでいるジョブはペナルティ期間が少ないといったメリットもあります。 ――アビリティ自体がファミコン版と変わっているジョブがあるようですが、具体的には? ファミコン版では使いづらかったジョブなども、使いやすく変わっていますか? 浅野:戦士とナイトに関しては、戦士には攻撃力上昇の「ふみこむ」を追加して攻撃的に、ナイトは「かばう」など、ディフェンシブな位置づけになっています。 ――白魔道師と導師などの、魔道師系の違いはどういう風になるのでしょうか? 浅野:DS版でも魔法が回数制になっていますが、低レベル魔法の使用回数が多いのが白魔道師で、導師は高レベルの魔法を使いやすいといった感じですね。あと、賢者との兼ね合いもありますし、白魔法を使うときに効果に影響する精神のステータスの成長の仕方なども調整しています。 ――成長具合にも関かわってくると? 田中:ただ、厳密には全ジョブが中盤やラストダンジョンで同じように進めるかというと、そうはならないでしょう。序盤有利なジョブもあるでしょうし、中盤に一番力を発揮するジョブもあるでしょうし、その辺はお好みで選んでいってほしいですね。 ――『FFIII』から採用された召喚魔法も変わっていますか? 浅野:召喚魔法の効果には、白、黒、合体という3種類ありますが、白や黒の召喚魔法も、使いどころでは合体より便利だったりするので、そういった意味で幻術師と魔界幻士の選択の幅が出てくると思います。 ――ちなみに召喚魔法の種類はファミコン版と同じですか? 浅野:種類や名前は変えていないです。召喚の白&黒の部分でいうと、効果が合体の方が一概に強いということではなくなったので、召喚魔法の効果には少々手を加えているものもあります。 ――使いづらかった学者や風水師なども、終盤まで連れて行けるのでしょうか? 浅野:今回はすっぴんを加えて全23ジョブがあるのですが、そのすべてのジョブをラストダンジョンに連れて行けるようバランスを取っています。ちなみに風水師は、デバッガーからラストダンジョンで強いとかも言われたりしてましたね。 ――すっぴんが入ったことで、たまねぎ剣士の存在が気になるのですが……。 田中:DS版は、たまねぎ剣士の位置にすっぴんが入ってますからね。たまねぎ剣士をどこにおくかはお楽しみにしていてください。 ――ゲストキャラクターが戦闘に参加してくれるのも、DS版の新要素ですよね。会話によるヒントだけでなく、戦闘でもサポートさせようとした意図というのは? 浅野:じつは、最初は5人パーティにしようと考えていたんですよ。 田中:グラフィックや戦闘バランスなどを1から直しているので、5人パーティにするのは難しくなかった。ただ、たまにしかいない5人目のキャラのために、スペックを割くよりかは、普段の4人でDSのスペックを使い切った方がベストだと考えて、飛び入りというスタイルにしました。 ――ゲストキャラクターは、ときどき助けてくれる感覚なのでしょうか? 田中:常にではなくて、ランダムで助けてくれる感じです。

【DS版の新要素(3):ムービーやモグネット】 ――タッチペンやWi-Fi通信への対応などについてですが、これは最初からやろうと思っていたものなんですか? 田中:DSの要素はいくつかあって、タッチスクリーンで操作する感覚というのは、今までゲーム機になかったですよね。ですから、触って遊べる感覚っていうのはやりたいなと思ってました。ファミコンの十字キーで操作するタイプだと8方向にしか動かせない。それを今の時代にそのまま持ってきちゃうのはつらい部分がある。自由に野原を駆け回るという感覚はタッチペン操作に向いていますし。 ――タッチペンでの戦闘で敵を叩く操作は、コマンド操作とは違う感覚ですよね。逆にタッチペンでしかできないようなイベントなどは? 浅野:スタートからエンディングまでタッチペンだけでも、十字キーだけでも、どちらでも遊べるように設計していますので、そういった追加要素は採用していません。 ――モグネットに関してですが、これは基本的にWi-Fi通信とは別に、ゲーム内にいるNPCに連絡をするシステムという理解でいいですか? 浅野:まず、通信を使った遊びを企画する過程で、プレイヤー同士のコミュニケーションが増えるのがいいだろうということで、手紙を出すモグネットを入れました。NPCと手紙のやり取りできるというのは、それのオマケ的な感じです。 ――逆なんですね。 田中:ニンテンドーのWi-Fiコネクションというのは、『FFXI』のような不特定多数ではなく、リアルでの友だち同士のみでコミュニケーションを取る身近な世界のコミュニケーション手段という感覚です。その狭い中でどうやって通信を使えばいいかと僕らなりに考えて、そのなかで生まれたのがモグネットなんですよ。本当の友だち同士だったら手紙を出すんじゃないかという、それによって、ゲームの中でもイロイロと……。 浅野:通信を使った遊びを考えていた過程で、『FFIII』にまったく関係ないミニゲームを入れるという案もあったんですが、そうではなく、『FFIII』は1人で遊ぶもので、それをさらに楽しませる仕組みの方がベストだと考えて、モグネットを採用したんです。 田中:案としてはずいぶんイロイロあったみたいです。ジョブを4体ずつ選んで戦うという通信対戦などもありました。モグネットというのは、さまざまな試行錯誤のうえで、たどり着いたシステムになっています。 ――モグネットで手紙をやり取りすることで、通常ではできない何かができるとか、どこかダンジョンの扉が開いてアイテムを取れるといった感じになる? 浅野:例えば、自分が『FFIII』を遊んでいて、普段とは違う“何か”が発生したときに、「僕の『FFIII』はこういう風になりました!」って手紙を出す。すると、その友だちも同じ現象が起きるという感じですね。 ――なるほど。秘密を発見し合う感じなのですね。その秘密を教えると共有できると。 浅野:あくまでプレイしている『FFIII』は、自分1人のものなんですけど、その楽しみをより増やせる、発見した喜びを人に分かち合えるというもの。1人プレイをより充実させるような要素と考えてます。 田中:今回は移植タイトルなので、通信を前提にしたゲームにはできないと考えていました。付加要素としてどういった遊びを入れるかという方向に力を入れるよりかは、まず『FFIII』を完全に移植しきったうえで、そのプラスアルファの要素としてモグネットなどを入れていきました。 ――NPCとの手紙のやり取りは、位置づけとしては通信とちょっと違いますが。例えば、シドに手紙を出すと近況が送られてくるみたいなものですか? 浅野:NPCについては、おまけクエスト的な感覚です。ちょっと困っているので助けに行くとかですね。 ――それに付随して、やりこみ要素的なものも増えていますか? アイテム収集とか、ファミコン版のオニオン装備収集みたいなものとか……。 田中:オニオン装備って、本当にみなさん集めていたんですかね?(笑) 結構、当時はこんなとこまでやるプレイヤーはいないだろうと思ってました。どうしてもそこまでやるならと、ご褒美として用意した記憶がありますね。DS版でも残ってますけどね。 ――オマケ要素など、移植のときのアレンジについて、今風のやりこみ要素的な仕掛けを入れるのか、それともオリジナルのよさを生かすのか、ゲーム全体のさじ加減はどのように考えて制作されていたのでしょうか? 田中:基本に忠実です。 浅野:本編についていうと、昔の『FF』シリーズのよさである王道のRPGという雰囲気を残すようにしました。新しい通信を使ったサブクエストなどについては、長く遊んでもらえばという前提で採用しています。クリアしたけどシドから手紙がくることもあるでしょうし、ジョブを極めれば何かいいこともあります。 ――気になるのは思い出深いラストダンジョンなのですが、3Dになることでどのような形になるのでしょうか。基本的にはファミコン版に忠実に作られている? 田中:各ダンジョンはだいたいファミコン版の階層数や形まで、ある程度同じにするようにしています。クリスタルタワーに関しては、さすがに全滅するとまた頭からというのは結構つらい部分だったと思いますので、塔の途中までなら「テレポ」を使って撤退はできるようにしています。1階から通しでラスボスにたどりつくまでいくというヘビーさは同じですが……。ただ、携帯機なので、どこでも保存できないといけない。電車でプレイしている最中に、そこで電源を切るわけにはいかないので、中断セーブはちゃんと用意しています。 ――それは、いわゆるロードしたらデータは消去されるタイプのものですか? 田中:はい。純粋なセーブファイルとして残るものではないです。 ――戻るのが大変ですからね。DS版は、難易度のハードさをはじめ、ファミコン版に忠実に移植している印象ですが、どういうユーザーに、どういう形で遊んでもらいたいと考えてますか? 田中:もともとDSというハードの位置づけって低年齢層がメインターゲットだと思います。大半のプレイヤーは新しいユーザーさんだろうとは思っています。そのうえで、じゃあ、昔『FFIII』をプレイしていた人たちを裏切っていいのかというと、そんなことは絶対ない。あくまで『III』というタイトルの移植作であるというのが大前提。でも、今の人たちも楽しめる。両方にとってのベストの形は何かと追求した結果がDS版だと思っています。 ――プロデューサーの浅野さんの方でもそういうさじ加減でバランスを取っている? 浅野:はい。『FFIII』なんで、軟弱なものにしてはいけない。でも、新しいDSユーザーに対して不親切なものであってはいけない。DS版は、難易度は高いと思いますが、不親切なゲームではないので難しいところを楽しんでほしいですね。 ●田中氏がディレクターとして制作に参加する理由とは?

――田中さんがオフラインのゲームタイトルをディレクションされるというのは久しぶりだ思うのですが、手応えはどうでしたか? 田中:大したことはやっていないですが(笑)。ただ、当時の『FFIII』というものが何を目指していたかという部分をずらしてほしくなかったので、開発には小うるさい親父として、いろいろ小言を……。 浅野:いえいえ。ジョブの相関図なども、当時の田中が意図を持って配置したものなので、CPにせよ、装備のことにせよ、当時どういう思想でそのシステムがどうしてそうなったのかを聞いて、その意図を汲むようにしてました。 田中:僕自身はほとんど忘れてましたけど(笑)。結構、当時はこれは正しいと信じて疑わなかったことも、今振り返えると「なんでこんなこと思っていたんだろう」と。 ――時間が経って考え方も変わったと(笑) 田中:ええ。どうして「たまねぎ剣士」なんて名前にしたんだろうとか。若いってすばらしいなと思うこともあります(笑)。 ――小学生のときにプレイした浅野さんは、プレイヤーとしての思い入れもあると思うのですが、プレイヤーの立場でこだわった部分というのは? 浅野:やはり、手触り感でしょうか。16回ヒットの気持ちよさやバトルのテンポなどがいちばん印象に残っているので、その触り心地を大切にしたつもりです。 ――田中さんのこだわりは? そもそもディレクションをするというからには、ほかの人に任せられないという何かがあったのでしょうか? 田中:当時『FFI』からずっと作っていくうえで、必ず前作の反省点をつきつめてというのがあった。『FFI』はオーソドックスな作りで、『II』は物語性プラス経験値のない斬新な成長システムが特徴でした。『FFIII』では、ジョブを切り替えながら戦うことや魔法を全体にかけるなど、プレイのテンポのよさと同時に、経験値やバトル全体をシステム的に完成させたものでした。『FFIII』の制作終了後に、もう少しアクション寄りで、戦闘を切り分けたスタイルじゃなくて、フィールド上でダイナミックに遊べないかないう方向で考え、『FFIV』を制作しはじめました。それが、いつの間にか『IV』ではなくなって……最終的には『聖剣伝説2』として発売されたわけですが、実はそれ、開発過程では『クロノトリガー』と呼ばれていたものなんですけどね(笑)。その当時は、『FFIII』の直後に鳥山(明氏※4)さんと話して、鳥山明さんのキャラクターを使い、横からみたシームレスなシステムのゲームを企画していたんです。スーパーファミコン用にCD-ROMが出るということだったので。そのCD-ROM用に膨大なものを設計して作っていたんですけど、結局リリースできなかった。それは『クロノトリガー』プロジェクトとして新たに作ることにしてもらって、先に作っていたものを『聖剣伝説2』としてまとめました。だから、自分の中では『聖剣2』が『FFIII』の続編という感覚だったんです。 ――なるほど複雑に繋がっているわけですね。 田中:そこから『聖剣3』や『ゼノギアス』、『クロノクロス』まで同じ経験値システムを持っていたりして、ゲームシステム的にはさらに繋がっているんです。各タイトルの世界観やシナリオはもちろん違いますけど。『FFXI』も『FFIII』のイメージを引き継いでいたりと、いろんなものの起点となるタイトルが『FFIII』かなと。メンバー的にも、昔の『FF』を引き継いでいますし。今回のDS版にも、バトル監修としてファミコン版のオリジナルスタッフだった青木(和彦氏※5)が参加しています。彼もすごくこだわりがあるようで、頭を使いながらジョブを選んで、あと1回敵を攻撃するか、それともケアルで回復するかというバランスを取りたいと、今(インタビュー当時)もギリギリまで調整しています。 ――DS版を少しプレイしましたが、確かにHPギリギリで勝利するというシビアなバランスでしたね。序盤のボス戦などは。 田中:実を言うと、坂口さんを始め、当時のスタッフが少なくなってしまったので、当時のデータを僕しかもっていなかったというのが理由の1つではあります。『FFI』と『II』は企画書も作らないで、最初からデータで作っていたんですよ。「このままではいけないね」と当時坂口さんと話してて、『FFIII』を制作するうえでは「企画書を書いてみよう」ということになった(笑)。しかも、当時は今みたいにワープロがない時代ですから、全部手書きで。その過程で作った企画書が後にも先にも最後で、『FFIV』以降になると全部データをサーバで持ち始めてしまって、そこから規模も大きくなってきたと……。何度か移植を開始するということで、そのときは「まかせるよ」と言って、データを渡してあったのですが、それがなかなか完成に至ることがなかった。今まで何度も本当にいろんな機種で、移植作業はしていたんですが、先ほど言ったような容量の問題とか、ハード側のモデルチェンジとか。『FFI』から順番に移植していくと『III』が出る頃にはもう次の世代のハードになってしまうので、また『I』からの制作になってしまう(笑)。しかも、先に『FFIV』~『VI』がPSで移植されて、『FFIII』はちょうど谷間のタイトルになってしまったと。 ――田中さんとしては、16年の過去を清算という感覚のリメイクなんですね。 田中:そうですね。個人的には移植タイトルというのはあまり肯定的ではないですけど、自分の過去に残してきたというのもあった。これが5年や10年前に『FFIII』を移植すると言われたら、「どうぞ、どうぞ」と他の人に任せていたでしょうね。 ――では最後に、新生『FFIII』のどういうところを見てほしいですか? 浅野:今の低年齢層ユーザーには、PS2で『FF』を始めて触った人もいると思うのですが、そういう人たちに『FFIII』を遊んでもらいたい。昔のユーザーが遊んで楽しいのはもちろんなのですが、いわゆる近代『FF』で入った方たちに、昔の『FF』はこんな感じだったんだと。特に『FFIII』は、ジョブチェンジや召喚魔法が始めて導入されて、今の『FF』の基礎になっている作品です。自分も1ファンとしてそう思っていたので、そういった部分を最近の『FF』のファンの人たちにも見てもらえたらと思っています。 田中:実際には、まったく新しい部分でも、昔のままと感じられる部分が多いと思います。サウンドやエフェクトをはじめ、宝箱や隠し通路の位置までファミコン版と同じだったりとか……。今も、昔の攻略本を見ながらテストプレイしてるくらいですから(笑)。昔のファンの人たちに、これぞ『FFIII』だと言ってもらえるとうれしいですね。 ――ありがとうございました。

※4 鳥山明氏:「ドラゴンボール」などでおなじみのあの鳥山明氏。『クロノトリガー』のキャラデザインを担当していた。 ※5 青木和彦氏:ファミコン版『FFIII』でもゲームデザインなどを担当。『FFVII』や『IX』なども手掛ける。


ファイナルファンタジーIII ファイナルファンタジーIII ■メーカー:スクウェア・エニックス ■対応機種:ニンテンドーDS ■ジャンル:RPG ■発売日:2006年8月24日発売 ■価格:5,980円(税込)   限定版:22,780円(税込) ■関連サイト:   ・ 公式サイト   ・ スクウェア・エニックス

(C)1990,2006 SQUARE ENIX CO.,LTD All Rights Reserved. ILLUSTRATION:AKIHIKO YOSHIDA TITLE DESIGN:YOSHITAKA AMANO

田中 弘道 氏 Hiromichi Tanaka 田中弘道氏 エグゼクティブプロデューサー ディレクター   ファミコン版『FFI』~『III』の開発にも携わっていた田中氏。現在は、MMORPGである『FFXI』の統括プロデューサー。『FFXI』は、『III』の流れを汲んでいるとのこと。ファミコン版へのこだわりから、DS版の制作に参加した。 浅野 智也 氏 Tomoya Asano 浅野智也氏 プロデューサー  小学生時代に『FFIII』をクリアしたという、若きプロデューサー。DS版のリニューアルに関して、随所にファミコン版へのこだわりを生かしている。PS2版『鋼の錬金術師』シリーズのプロデュースなども担当している。 今すぐ購入! Amazonで購入 TSUTAYA onlineで購入


画面写真

画面写真

画面写真

画面写真

画面写真

画面写真

画面写真

画面写真

画面写真

画面写真