Difference between revisions of "July 15 and 16, 2003 - Interviews with Takashi Tokita"

From Chrono Compendium
Jump to: navigation, search
 
(Interview Two)
Line 66: Line 66:
  
 
==Interview Two==
 
==Interview Two==
 +
 +
From [http://game.goo.ne.jp/contents/news/NGN20030716exp03/index.html http://game.goo.ne.jp/contents/news/NGN20030716exp03/index.html].
  
 
『クロノトリガー』を最後に、時田氏の仕事はPSへと移行する。PSでの第1作目は『パラサイトイブ』……となるはずだったが、「その前に『FFVII』もちょっと参加しましたね。当時は、『パラサイトイブ』の準備で、アメリカと日本を行き来していたんですけど、本格的に向こうに行って開発の準備をしようという時期で、ビザを取りに日本へ1週間程帰ってきたら、“『FFVII』が間に合わないから手伝ってくれ”と言われて、1週間のつもりが3ヶ月になって (笑)。でも逆に、PSのゲームを初めてここでやったんで、その成果が『パラサイトイブ』にもフィードバックされたんじゃないかな」(時田氏)。
 
『クロノトリガー』を最後に、時田氏の仕事はPSへと移行する。PSでの第1作目は『パラサイトイブ』……となるはずだったが、「その前に『FFVII』もちょっと参加しましたね。当時は、『パラサイトイブ』の準備で、アメリカと日本を行き来していたんですけど、本格的に向こうに行って開発の準備をしようという時期で、ビザを取りに日本へ1週間程帰ってきたら、“『FFVII』が間に合わないから手伝ってくれ”と言われて、1週間のつもりが3ヶ月になって (笑)。でも逆に、PSのゲームを初めてここでやったんで、その成果が『パラサイトイブ』にもフィードバックされたんじゃないかな」(時田氏)。

Revision as of 05:17, 15 January 2008

Interview One

From http://gameinfo.yahoo.co.jp/news/eg/20030715n01.html.

ゲームな人々】第10回 時田貴司氏(前編)

どんな仕事でも、長年、現場の第一線に身を置くということは、非常に難しいことだ。モチベーション、エネルギー、アイデア……様々なものを持ち続けていかねばならない。ゲーム業界もまた然りで、生存競争、と言うと大げさかもしれないが、ダラダラとしたスタンスで開発現場に身を置いていられる程、甘い世界ではないことは確かだ。

スクウェア・エニックスに、旧スクウェア時代から、数々のヒット作品の開発に携わり、現在も新作の陣頭指揮を執っている一人の“凄腕”がいる。その人の名は、第7開発事業部プロデューサー、ディレクター・時田貴司氏。今回のゲストだ。


時田氏は、スクウェアに入る前からゲーム業界に足を踏み入れていた。しかも、元々志していた職業は違うものだった上に、キャリアも意外な所からスタートする。 「高校在学中から役者をやりたかったんですよ。それで、高校出てからは東京に出て、劇団のある下北沢で一人暮らしを始めたんですが、バイトを探さなきゃということになって、情報誌で仕事を探していたら、六本木が職場で、ゲームのグラフィックデザイナーの仕事があったんです。“六本木でグラフィックデザイナーか~。俺も東京に出てきたからにはカッコいい仕事がいいな~”と思って(笑)。それに、絵が好きだったし、どうせアルバイトをやるなら面白い仕事がいいなと思ったんで、ちょっとやってみようと」(時田氏)。

絵の方も、高校の頃に漫画を描いていて、某週刊漫画誌に応募した所、2次選考まで行ったという腕前だったという。

仕事の内容は、ドット絵描き。最初に手がけたのは、MSXの『フェアリー』というアクションパズルのゲームだった。 「主人公の妖精が旅先から帰ってくると、家が害虫に侵食されていて、その駆除をするという設定で、僕はキャラクターを描いていました」(時田氏)。

他にも、PC用のタイトルなど、数作品の制作に携わっている。また、この会社に在籍している間に、『ドラゴンクエスト』シリーズの山名学氏、『シャイニング&ザ・ダクネス』『ランナバウト』の内藤寛氏という2人の名プログラマーにも出会っている。

スクウェアに入る契機はテレビだった。 「『キングスナイト』のCMがテレビでバンバン放映されていたんですよ。それを見て、他のゲームには無い洗練された印象を受けたんです。それで、また情報誌で探して応募しました。そこでもグラフィックデザイナーのバイトとしてですね」(時田氏)。

こうして時田氏は約2年ほど勤めた会社を辞め、スクウェアに籍を移すことになる。デビュー作は、PC、MSX用に開発された『エイリアン2』。この作品では、1人でグラフィックを担当しており、プラモデルを見ながら、「一時期は、何も見ないでエイリアンが描けた程」(時田氏)、ひたすらエイリアンを描いていたという。

当時のスクウェアの印象について聞いてみた所、時田氏は「“ちゃんとした会社だな”っていうのが第一印象でしたね。企画とグラフィックデザイナーとプログラマーという3つの職種があって、当時の開発期間は1ヶ月に1本とかもザラでしたが、スケジュールも半年くらいはキチンと取って作っていたんで」と振り返っている。業界全体がまだ未成熟な頃から、開発環境を適切に整えていたスクウェア。後の躍進は、ゲームの質以外にも、こういった積み重ねが要因となっているように思える。

グラフィックデザイナーとして仕事をこなしていく時田氏に、ある出会いが訪れる。それは、山名氏から勧められた1本のゲームだった。

「自分の中で大きかったのは、『ドラクエII』ですね。ストーリー性があったのが凄くショックだったんですよ。サマルトリアの王子を探しても、なかなか居なくて、宿屋で寝ていたなんてオチがついていたじゃないですか。“こ・の・や・ろー!”ってなるんですけど、戦闘だと回復魔法をかけてくれたりするんで、 “んー、嫌いだけどしょうがねーなー”みたいな(笑)、初めてゲームで感情移入ができる作品だったんですよ。僕は元々、コンピュータが嫌いな人間だったんで、『ウィザードリー』なんかもやったこと無かったんです。PCを初めて触ったのも、前の会社が最初で、自宅にパソコンを導入したのも1昨年の夏ですね。ちなみに、まだナローバンドです(笑)。だから、まともにRPGをやったのは『ドラクエII』が最初なんですよ」(時田氏)。

この出会いから、時田氏はまた別のステージへと進むことになる。

初めてRPGの制作に関わったのは、あの『ファイナルファンタジー』(以下『FF』)シリーズの記念すべき第1作目だった。 「メインスタッフじゃないですけど、天野さん(天野喜孝氏)が描いた原画をドット絵にしたり、縮小マップの四隅にあるドラゴンの絵を描いていたりした覚えがありますね」(時田氏)。 『魔界塔士Sa・Ga』では、グラフィックも担当しながらシナリオのアイデアも出していった。

「そういう意味では、RPGにちゃんと参加したのは『魔界塔士Sa・Ga』ですね」(時田氏)。また、マニュアルのイラストも時田氏が描いたものだそうだ。

シナリオについて、時田氏はこうも語っている。「僕は、映画とかでもそうですけど、観ている人が、どれ位感情移入できるかだと思っているんですよ。ゲームの場合、自分で操作する分、より感情移入ができるじゃないですか。“プレイヤーにこう思わせておいて、どんでん返しをする”というのが面白いですし、それは今も変わらないです。プレイヤーの気持ちをどう揺さぶるかですよね」(時田氏)。

この“どんでん返し”が如実に顕れたのが、SFC『ライブ・ア・ライブ』だ。この作品は、7つのシナリオからなる異色のRPGで、各編で島本和彦氏、皆川亮二氏、小林よしのり氏といった有名漫画家をキャラクターデザインに起用したことも話題になった。 「ディレクターとして、初めての作品でした。ゲームならではの部分も入っていますけど、ゲームでやっていなかった部分もワザと入れてみたりとか。1本道のシナリをショートショートでやったり……オムニバス映画ですよね。“フォールームス”みたいな。好きな順番でプレイできるんだけど、繋がっているという所があるという構築の仕方はどうかなと思って。ゲームとしては、RPGのバトルの要素がクローズアップしたり、アドベンチャーの要素がクローズアップしたりで、かなり実験的なことをやった作品ですね」(時田氏)。

また、時田氏は先述の『FF』以外に、『FFIII』と『FFIV』、2つのシリーズ作品にも参加している。 「『FFIII』は効果音とか作っていましたね(笑)。効果音のスタッフが居なかったんですよ。音楽は、植松(植松伸夫氏)が曲を書いて、プログラマーがサウンドに起こして、効果音は植松と僕がやって。そこですよね、ベースは。技術的な表現力は無いんだけど、ゲームを作るための全部の仕事をやってきたというのが、今の完全分業制になってしまった状況しか知らない人との違いかなと」(時田氏)。時田氏の多才さを感じさせるエピソードだ。 『FFIV』については、こんな裏話も。「“レミングウェイ”っていうキャラクターが居るんですけど、あれは坂口から“チョコボに代わる新キャラクターを出そうよ”と言われて僕が考えたキャラクターなんです。“よっしゃ、レミングウェイだ! これはいけるぜ!”って思っていたんですけど、全然評判悪くて、『FFV』から居なかったことになっていて(笑)。でも、あのキャラクターは色んな街に存在していて、襲撃を受けた街だったら怪我人と一緒に寝ていたりだとか、メインのストーリーとは関係ない部分で遊んでいくと面白さというか。だから、小ネタ、好きなんですよね(笑)」(時田氏)。

『ドラゴンクエスト』シリーズの堀井雄二氏と鳥山明氏、『FF』シリーズの坂口氏という豪華な顔触れで制作されたSFC『クロノトリガー』。この話題作にも時田氏は関わっている。 「シナリオが全部上がる前に、鳥山さんのキャラクターデザインと、世界観の部分は出来上がっていたんで、そこで凄く触発されましたね。僕はやっぱり、ギャグも OKな世界観が好きなんで。『クロノトリガー』がみんなに愛されるのって、キャラクターがギャグもやるからだと思うんですよね。鳥山さんの絵って、ギャグもシリアスもはOKじゃないですか。あと、カッコつけてるのが“魔王”くらいしかいないというのがポイントですね。今のRPGって、みんなカッコつけてますよね。鳥山さんのキャラクターって、カッコつけてるやつがカッコ悪かったりするんですよね。“ドラゴンボール”のピッコロ大魔王ってギャグとか言うじゃないですか。それがいいなと(笑)。仕事としては、堀井さんから来たシナリオと、ウチのスタッフが出したアイデアを、坂口がまとめて、僕がそれを脚色してイベントシーンを作るという内容でした」(時田氏)。

この時、時田氏は主人公観につていも言及した。 「僕は、ゲームの主人公は普通の人間でいいと思うんですよ。“エヴァンゲリオン”のシンジとか“ガンダム”のアムロみたいに、アニメは主人公が悩んでも良いと思いますけど、ゲームはプレイヤーが悩むべきであって、主人公が悩んでもしょうがないんですよ。その分、脇役やストーリー展開で引っ張らないと、ゲームのシナリオの良さは出ないんじゃないかなと。ゲームって、ボイスとかムービーが入ってきて、見せたかがる方向に行くんですけど、見せる所と遊ばせる所って、違うじゃないですか。スケールがある所はムービーにするべきだけど、キャラクターの表情なんかはプレイヤーが想像すればいいんで、そういう意味では、主人公が選択肢のみでしか喋らないというのは、ゲームとして正しい姿だと思いますね」(時田氏)。

『クロノトリガー』の主人公も、自ら語ることはない。それも気に入っている理由の一つだという。

(後編へ続く)

プロフィール 時田貴司(ときた・たかし)

株式会社スクウェア・エニックス 第7開発事業部 プロデューサー ディレクター 代表作 FC『半熟英雄』、SFC『ライブ・ア・ライブ』、SFC『クロノ・トリガー』、SFC『ファイナルファンタジーIV』、PS『パラサイトイブ』等々

Interview Two

From http://game.goo.ne.jp/contents/news/NGN20030716exp03/index.html.

『クロノトリガー』を最後に、時田氏の仕事はPSへと移行する。PSでの第1作目は『パラサイトイブ』……となるはずだったが、「その前に『FFVII』もちょっと参加しましたね。当時は、『パラサイトイブ』の準備で、アメリカと日本を行き来していたんですけど、本格的に向こうに行って開発の準備をしようという時期で、ビザを取りに日本へ1週間程帰ってきたら、“『FFVII』が間に合わないから手伝ってくれ”と言われて、1週間のつもりが3ヶ月になって (笑)。でも逆に、PSのゲームを初めてここでやったんで、その成果が『パラサイトイブ』にもフィードバックされたんじゃないかな」(時田氏)。

『FFVII』で“ムービーシーン”というものを初めて観て、時田氏は「面白い」と素直に思ったという。しかし、こうも付け加えている。 「基本は感情移入させるために使うのであって、今は見せるのに寄っちゃっていますけど、惹きつけた上で見せて、また惹きつけるということを意識しないと、ムービーに振り回されると思んですよ」(時田氏)。 ムービーを見せるためにゲームを作る、などということになっては、本末転倒もいい所。ゲームはゲームであって、それ以外の何物でもない。ムービーは、あくまで手段の一つでしかないのだ。

『パラサイトイブ』では、かつて体験したことの無い規模の大部隊を指揮することになった。 「原作もありますし、CGはハリウッドのスタッフを起用していますし……結構大変でしたね。僕は英悟があまり得意じゃないんで、基本的には通訳を挟んでの打ち合わせでしたし、文化の違いもありますしね。アメリカ人って、大体フレンドリーじゃないですか。だから、仕事していなくても“ハーイ!”って言われると、こっちも“ハーイ!”って返しちゃう(笑)。でも、凄く良い経験になりましたね。それで苦労したからこそ、どんな人間とでも仕事できるなと。スタッフの人数はえらい多かったですね。ああなっちゃうと、昔みたいにノリで作るのではなくて、プロに徹して作っていました。そうしないと、100人がアマチュアだったら、何も完成しないですよね。だから、大きな軸を作る人達と、言葉は悪いですけど、部品を作る人達でキッチリ分けて。そうせざるを得ないですよね。個人的には好みではないですけど(笑)」(時田氏)。

帰国してからは、PS『チョコボレーシング』、PS2『バウンサー』などを手がけ、さらにジャンルの幅を増やしていった。 「『FF』のチームに残るという選択肢もあったと思うんですけど、それってつまらないじゃないですか。タイトルは違うけど、色々やった方が仕事としては面白いし、ノリも出てくると思うんで。あと、毎回発見がありますよね。まあ、ギャグの『FF』作ってもいいよってことだったら残りますけど。『ヒャイナルヒャンタジ ―』とか(笑)」(時田氏)。

環境が何回も変わるというのは、かなりの苦労があったと思うが、その苦労さえも時田氏は自分のパワーとしていったのだ。

環境の変化と言えば、今年4月にスクウェアは大きな変化を迎えた。エニックスとの合併である。開発現場は、どのような状況になったのだろうか? 「事業部ごとの制作という独立体制は出来ていたんで、そこにエニックスの事業部が入ってきて、横の並びが増えるんで、良い意味で刺激が増えました。むしろ、プラスの方向で進んでいる気はします。だから、『クロノトリガー2』みたいな話が出てくる可能性があると思うんですよね。でも、それが上から作れと言われてやるのと、現場から話が出てやるのとではモチベーションが違うんですよ。そういう意味では、事業部制も合併もそうですけど、やりたい人間が企画を立てて、予算を作っていくという所がテーマなんで、やりたいことじゃないと頑張れないし、やりたいことじゃないと面白いものは出来ないと思いますね」(時田氏)。  ここで、時田氏を知る読者諸兄ならば、「あの作品を忘れているぞ!」とツッコミたい所だろう。時田氏のキャリアにおいて、非常に重要な“あの作品”。そう、『半熟英雄』シリーズだ。この『半熟英雄』については、次項で総括していきたい。

『半熟英雄』シリーズの第1作目は、1988年に家庭用ゲーム機初の本格的リアルタイムSLGとしてFCでリリースされた。しっかりと作られたゲームシステムの上に、笑いのトッピングをふんだんに散りばめた異色の作品で、作中に登場する“エッグモンスター”と呼ばれるクリーチャー群の多彩さも、当時のユーザー達に強烈なインパクトを残した。

この作品は、時田氏が『FF』の開発を終えた後に胎動し始める。 「『スクウェアのトム・ソーヤ』に少し関わって、その途中から『半熟英雄』に参加しました。『FF』に、“リッチ”っていうモンスターが出るんですけど、それを味方側にしたら面白いよねっていうのが“エッグモンスター”の原点。『FF』のグラフィックデータで、テスト画面を作っていたりしました。企画で、卵を割ったらモンスターが出てくるというのはあったんですけど、画面でどう見せるかということになった時、“じゃあ、『FF』ひっくり返せばいいじゃん”って。その頃から、『FF』とは対極をなす運命が決められていたのかな(笑)」(時田氏)。

こうして生まれたエッグモンスターが、後に『FF』シリーズでも“召喚獣”という形で取り入れられることになる。

『半熟英雄』の続編『半熟英雄 ああ、世界よ半熟なれ…!!』がリリースされたのは、前作から4年が経過した1992年。ハードはFCからSFCとなっていた。 「その頃、別のSLGを作っていたんですよ。でも、それは堅いSLGになりそうだったんで、“そんなの面白くないからやめようよ”って言って。FCの『半熟英雄』もそうだったんですけど、当時はPCの流れが家庭用機に来るという風潮があったんですよ。アクションがあって、アドベンチャーがあって、RPGがあって、次来るのはSLGだろうと。でも、PCのSLGみたいな数字ばっかりのゲームって、家庭用機オンリーのユーザーって、遊びたくないんじゃないかなと思ったんですよ。そういった部分を、全部絵で請け負うというのが(家庭用機における)キーワードだったんで、僕がそのSLGを作ることになっていたし、「いいじゃん、『半熟英雄』で」っていうことになったんです。だから、硬派なSLGを作りたかったスタッフ達は、つまらなかったかもしれませんね(笑)」 (時田氏)。

ちなみにこの作品は、エッグモンスターの追加などのリメイクが施され、2002年にWSCに移植されている。

PS2『半熟英雄対3D』

そして2003年、再び『半熟英雄』が動き出す。6月26日に、ファン待望の最新作『半熟英雄 対 3D』がPS2で発売されるのだ。今回、時田氏は、あえて人数を30人より増やさないと決めて開発に臨んでいる。 「思いついたアイデアをその場で入れてもOKな世界観……つまり、“某のゲームだからこれはダメ”っていうのが(『半熟英雄』には)無いじゃないですか。むしろ“もっとやろうよ”っていう。現場のスタッフや役者さんとかにも、“もっと遊んでください”と言うと、ちゃんと遊んでくれて、より上に行くんですよね。そういう昔みたいな、みんなが頑張って面白くなっていくという感覚が、久しぶりに戻ってきました。それはやはり、人数が少ない中で、かつ制約が無い状況じゃないと出来ないと思いますね」(時田氏)。

大人数で開発するという選択肢もある。しかし、それを選ばず、少数のスタッフに留めたのは、“原点回帰”とも言うべき想いが時田氏にあったからなのだ。

『半熟英雄対3D』の大きなポイントは、やはり“対 3D”という部分だ。「『半熟英雄』をフル3Dにしたら、30人では作れないですし、エッグモンスターも101体入れられないですよ。もちろんコスト面もあるんですけど、50人にしたからといって、コスト分のものが作れるかといったら結構難しいんですよね。それに、2Dだと物量がこなせるじゃないですか。ネタ数で勝負する2Dと、クオリティーで勝負する3Dの戦いっていうのは、僕が色んな仕事をやってきて感じたことが無意識の内に現れた結果だと思うんですよね」(時田氏)。

また、2Dと3Dの対立構図を作った結果、新たな発見もあった。 「最初はドット絵の方が良いなと感じていたんですけど、3Dスタッフがそれを見て“なにくそ~!”と頑張ってくれて(笑)。3Dも、下らないことをやってくれると凄く説得力があるなと思いましたよ。出来上がった画面を見ると、どっちの良さも引き立てあっていて、それでいて切磋琢磨しているんですよね、お互いに。この相乗効果というのは僕も驚きました」(時田氏)。  ゲーム画面を実際に見れば分かってもらえると思うが、立体と非立体が共存しているシチュエーションというのは、実に面白く、かつ不思議だ。これは、2Dの良さも、3Dの利用価値も知っている時田氏ならではの産物だろう。


時田氏は『半熟英雄』について、『FF』と比較し、このように説明している。 「『FF』は縦のボリュームが凄いんですけど、『半熟英雄』の縦幅は4分の1程度。でも、横のボリュームは負けていないので、その感覚は遊んでもらえれば分かってもらえるんじゃないかなと」(時田氏)。

この横幅というのは、懐の広さとも言える。親しみやすいキャラクター、大量の小ネタ、公募によって集められたエッグモンスターなど、良い意味で“大衆路線”の作品だ。また『半熟英雄対3D』では、主題歌をささきいさお氏が歌い、ゲストキャラクターには芸人の海老一染之助・染太郎師匠、鉄拳さんが登場。さらにナレーションは、タレントのこずえ鈴さんが担当している。「これでもか!」という程のサービス精神旺盛なラインナップだ。「見てくれではなく中身」という時田氏の姿勢が如実に表れている。

『半熟英雄 対 3D』は、今年のゲーム業界において重要な1本……と言うつもりは無い。そんな肩肘突っ張らしたような作品ではないのだ。あくまでゆったりと、リラックスして楽しんでもらいたい。それこそが『半熟英雄』だと思う。

今後、時田氏はどのようなゲームを作っていくのか聞いてみた。 「やっぱり、僕は真面目な作品っていうのは苦手ですし、やっていて楽しいことがいいなと。“自分たちが楽しんでいてはプロではない”という意見もありますけど、自分が楽しめないものを人に勧められるかというと、それは出来ないと思うんで。ただ、誤解して欲しくないのは、ギャグの中でもシリアスは出来るんですよね。でも、シリアスの中でギャグは出来ないんですよ。どっちが色々とアイデアを入れられるかと言えば、それは前者になるんで、“もうカタギにはなれません”っていう感じですね(笑)。あと、今回の企画を河津さん(河津秋敏氏。『サガ』シリーズの中心人物で第2開発事業部長)に見せたら、“対 3D! その手があったか!”って(笑)。河津さんも、2Dの良さっていうのを、ずっとゲームで表現しているんですけど、さすがに『サガ 対 3D』は出来ないだろうと(笑)。それを実現できるのは、『半熟英雄』みたいな、ギャグもアリの世界なんです。ゲーム本来が持っていた何でもOKの感覚っていうのが、表現力がドンドン上がっている中で失ってきているんですよ。今回『半熟英雄 対 3D』を出すことによって、“ゲームって節操が無くても1本に色々と詰っている感じが楽しいんじゃないの”というのを呼び起こしたいですね」(時田氏)。

常に前進し、色々なものを貪欲に吸収して、時田氏はこれからも歩き続ける。

最後に、『半熟英雄対3D』のユーザーになるであろう人たちに向けてメッセージをいただいた。 「昔から『半熟英雄』を遊んでいる人には“お待たせしました”ですね。10年の月日が経って、変わった部分と変わらない部分があるんですけど、基本的に僕は 10年前と精神年齢が変わっていないので(笑)、楽しめるんじゃないかなと。新しく遊ぶ人には、“このゲームは何なんだ?”って思われるかもしれませんけど(笑)、先が読めないというのは確かだと思います。体験したことの無い感覚が味わえる筈なので、是非遊んでください。今のゲームに飽きた人にもプレイしてもらいたいですね」(時田氏)。

プロフィール 時田貴司(ときた・たかし)

株式会社スクウェア・エニックス 第7開発事業部 プロデューサー ディレクター 代表作 FC『半熟英雄』、SFC『ライブ・ア・ライブ』、SFC『クロノ・トリガー』、SFC『ファイナルファンタジーIV』、PS『パラサイトイブ』等々

From: Interviews