Difference between revisions of "April 4, 2016 - Denfa Minico Kazuhiko Torishima Interview"

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『クロノ・トリガー』は鳥山明のイラストから作った

――その後、ジャンプは『ドラクエ』だけじゃなくて『FF』とも組んでいきましたよね。

鳥嶋氏:

最初に坂口博信(※)と会ったのは『FFIII』のときだったかな。

Vジャンプを立ち上げようとしていた時期に、後に『遊☆戯☆王』の初代カードプロデューサーになる下村聡さん(※※)という人が紹介してくれたんだよ。当時、『FF』は若い人の間で人気になりだしていたけど、全く付き合いがなかったからね。

※坂口博信

1962年生まれ。「ファイナルファンタジー」シリーズを手がけたゲームクリエイターとして知られるが、脚本家・映画監督としても活躍。2001年にゲーム制作会社のミストウォーカーを立ち上げ、現在は同社の代表取締役社長を務める。

※※下村 聡

2011年に“世界で最も販売枚数の多いトレーディングカードゲーム”としてギネス・ワールド・レコーズ社に認定された『遊☆戯☆王』の初代カードプロデューサー。作中に登場するシモン・ムーランというキャラクターの名前は下村氏が由来となっている。

ただ、そのときに坂口が「『FFⅣ』をジャンプで特集してくれ」と持ってきたのは、申し訳ないけど見送ることにした。

僕らのゲームページの方針というのは、単にゲームを見せるというものじゃなかったからね。最初からちゃんと組んで、編集部がキッチリとモノを言える体制にする代わりに誌面に大きく出す。そうしてマーチャンダイジング的な展開まで組んで、大きな流れにしていく。ジャンプでやるからには、そうでないといけないと思っていたんです

――ただ、以前に坂口博信さんにインタビューしたとき、断られるついでに鳥嶋さんにもの凄いダメ出しを食らったと聞いて……(笑)。

鳥嶋氏:

ああ、あったね(笑)。

やっぱり、『FF』はあまりにバランスが悪いんだよ。ドラマは魅力的なのに、ダンジョンが妙に難しかったり、台詞がどうしようもなくクドかったり、とにかく独りよがりな部分が多くて「惜しいなあ」と思っていたんだね。

だから、僕は坂口がやってくるなり初対面で、いかに『FF』がダメかという話を滔々としたの。

――いきなり会議室に呼ばれるなり「敵役に魅力がない」なんて説教されて、坂口さんは「奮起した」と言ってました。

鳥嶋氏:

僕があとで聞いたら、「ものすごく腹が立った」と言ってたけどね(笑)。「呼ばれたから来てみたら、いきなり文句を言われて、何だそりゃ!?」って。

ただ、僕としてはそのくらい坂口と『FF』を語りたかったんです。なぜなら、本気で『FF』を『ドラクエ』と並び立つもう一本にしたかったから。そうなればゲーム業界がどれだけ活性化することか。考えただけでも、ワクワクするじゃない。

――ライバルの存在こそが盛り上げていく。まさにジャンプの発想ですね。

鳥嶋氏:

業界を盛り上げる上で、ライバルの存在というのは重要なんですよ。で、ついでに『FF』もジャンプが扱うようになるわけ(笑)。

佐藤氏:

それにしても、その二つがいまや合併しちゃってるんだよねえ。

鳥嶋氏:

あれは今のゲーム業界をつまらなくした元凶の一つでしょう。やっぱりスクウェアとエニックスは合併するべきではなかったと僕は思ってますね。

――その後、坂口さんとの関係はどうなったのですか?

鳥嶋氏:

不思議なことに気がつけば週一回、飲みに行くようになったんだよ。しかも、坂口の方から誘ってきていたと思う。

佐藤氏:

カチンと来ていたのに(笑)。

――坂口さん、さすがですね。

鳥嶋氏:

いやあ、アイツ、単にMなんじゃないの(笑)?


その後も坂口が『FFⅣ』をジャンプ編集部にプレゼンしに来たら、編集部の連中に「何だ、『ドラクエ』じゃないのか」と立ち去られたという“事件”があって、坂口は深く傷ついていたからね(笑)。結局、『FFIV』もジャンプ誌面では取り上げなかったな。

――ひどい(笑)。

鳥嶋氏:

ただ、『Ⅴ』からは『ドラクエ』のようにタイアップで始めてみたんですよ。

ところが……全くウケないんだね。やっぱり、『ドラクエ』は鳥山さんの絵があるから、それだけでキャッチーだったんですよ。

――まさに、鳥山さんを絡ませた判断は大当たりだったという話だと思いますが、でも当時のFFって、いまも語り継がれる天野喜孝さんの絵だったわけですよね。

鳥嶋氏:

でも、ジャンプではウケなかった。結果『FFV』の売上は前作の2.5倍になったんだけど、最初誌面での人気はもうボロボロ。それで、坂口と話して「このままじゃダメだね」となったの。


そこで僕たちはゲームに映画のスチールの考え方を持ち込んだんだよ。

要するに、始まったばかりで何も出来ていないものを中途半端に見せても仕方ないじゃない。だから、いきなりキービジュアルを作りこんでしまうわけ。「このシーンはこうだ!」というビジュアルを先に見せた上で、後からゲームを作り込んでいく。これが現在に至るゲームの記事の出し方の始まりですよ。

――なんと……。

佐藤氏:

そのキービジュアルというのは、ゲームの画面のことだよね?

鳥嶋氏:

先にボス戦の構図だとか、決めのシーンの絵を仕上げた上で、そこに向けて作っていくんだよ。これを徹底的にやったのが、少し先の話になってしまうけど『クロノ・トリガー』ね。先に鳥山明さんが各シーンの絵を描いて、それに合わせる形でスクウェアがゲーム画面を作って、ゲームはそれを縫うように作っていった。

――そんなやり方で製作されていたとは……。鳥山さんの『クロノ・トリガー』の絵は、今もファンの間で「神がかっている」と語り継がれるものですが、むしろあの絵をインスピレーションにゲームがつくられていたのですか。

鳥嶋氏:

たぶん、もう今の鳥山さんに、あの絵は描けないと思う。彼の才能が全盛期にあったときに、まずは思うままに描いてもらったんだね。

――それって、もはやゲームデザインみたいな話から組み立てていく発想とは、真逆の場所からゲームが作られていますよね。ゲームの反響から先に設計しているというか……。

佐藤氏:

というか、もっと言ってしまうと、当時のジャンプの誌面の中でいかにウケるかという発想からゲームが作られていたということだよね。

鳥嶋氏:

もちろん。でもさ、そもそもタイムテーブルで言うと、発売まで半年くらい誌面を持たせなきゃいけないわけで、期待感を煽るのは必要になるわけでしょう。

佐藤氏:

でも、当時のゲームクリエイターに、そういう発想は難しかっただろうね。「キャッチーに作っていく」とか「ウリの要素をただ足すだけでなくて抜き出していく」みたいな、プロデューサー的なセンスはあまりなかったと思いますよ。

鳥嶋氏:

うん。でも、出版業界の編集者にとっては、「キャッチーな絵で売る」とか「パッケージでどう目を止まらせるか」みたいな考え方は当たり前のことだから。

――そもそも昔のゲームクリエイターって、いわゆる“コンピューターオタク”上がりの、マイナーな世界で活動されていた方が多かったですしね。

鳥嶋氏:

そういう部分については、やっぱり編集者のポジションの人間がダメ出しをしないといけなかったんですよ。

――以前に坂口さんにインタビューしたとき、確かに鳥嶋さんに言われた瞬間はカッとなったけど、家に帰って考えたら「いや、これは正しいぞ」と思えてきたと言ってました。

鳥嶋氏:

結局、クリエイターは自分が作ったものに対する思い入れや愛着があるんですよ。それに、「これは仲間と一緒に作ったものだから」とかつい思っちゃうしね。


でも、僕たち編集の仕事は、読者目線で「そういうクリエイターのエゴをいかに断ち切るか」にあるんです。全ては読者にとって、面白いか面白くないかだけ。だから、勝負は最初にパッと見た瞬間に決まる。キャッチーかキャッチーじゃないか――まずはそれなんですよ。

「自分をミダス王と自嘲していたんです」

――聞いていると、『クロノ・トリガー』も雑誌編集者的な発想から生まれたゲームということのようですね。

鳥嶋氏:

いや、それは少し違うかな。

元々は「エニックスが堀井雄二さんを甘やかしてるな」と思ったのが理由だね。堀井さんを本当に大事にして、ゲーム業界を活性化させたければ、やっぱり新しい企画をやらせなきゃいけないんだけど、『ドラクエ』ばかりつくらせてるじゃない。

そこで申し訳ないけど、エニックスの千田さんには無断で企画を動かすことにしたの。それで思いついたのが、鳥山明+堀井雄二+坂口博信=『ドラクエ』+『FF』=『クロノ・トリガー』だったわけ。で、「史上最高のゲーム登場!」と銘打った校了紙をエニックスに送ったら、さすがに千田さんが慌てて電話をかけてきた。「これだけは勘弁してくれないか」と言ってきてね。

佐藤氏:  そりゃそうだよねえ(笑)。

鳥嶋氏:

でも、そこは彼とも戦って、なんとか通したけどね。坂口にも、クレームは僕が全て引き受けると伝えていたし。

――ちなみに、ここでも鳥嶋さんは製作に絡んでないんですか?

鳥嶋氏:

もちろん。『ドラクエ』と一緒で、関わったのは基本的に座組のところだけ。

佐藤氏:

でも当時、やっかみ記事が出ていたよね。

鳥嶋氏:

いやもう、色々とあったよね。『噂の眞相』(※)に「鳥嶋は裏でバックマージンをもらっている」なんて書かれて、上司から疑われたりして(笑)。

※『噂の眞相』 1979年から2004年まで刊行されていた月刊雑誌。「タブーなき雑誌」を標榜して政治経済、社会情勢、芸能界ゴシップ報道などのスクープを掲載していた。

――もはや一介の編集者が通常やる仕事の範疇を超えはじめてますからね。

鳥嶋氏:

ただ、僕からすれば、坂口や堀井さんたちのプロジェクトにこんなに無責任に関われてしまうのは、お金をもらってないからなんだよ。ノーギャラだからこそ、僕は彼らに“お客さん目線”で好きなように言えるの。それはとても大事なことなんですよ。


だから僕は当時、よく自分を「ミダス王」(※)と自嘲してたんです。自分が触れた人間たちにお金を振りまくことはできる。でも、僕自身にお金が入ってくることはない。自分に触れたら、「ミダス王」はおしまいなんですよ。

※ミダス王 ギリシャ神話に登場する王で、触れたもの全てを黄金に変える能力を持つとされる。童話『王様の耳はロバの耳』にも登場し、耳がロバになってしまうことでも有名。

――もちろん、その一方で雑誌編集者として制作過程のドキュメンタリーを誌面で行って、ジャンプ編集部に還元していたのだと思いますが。あれ、でも『クロノ・トリガー』って、ジャンプというよりはVジャンプ主導の企画に見えたのですが……。

鳥嶋氏:

もちろん。だから、創刊時にVジャンプを盛り上げるために、半ばジャンプ編集部を騙したようなものだよね(笑)。初出しからあとは、ずっとVジャンプでの情報出しがメインだったんだから。

佐藤氏:

はっはっは(笑)。でも雑誌創刊時の、「これでイケる」という感覚の持ち方が、ファミマガやファミ通の編集者たちとは、ずいぶんと発想が違うね。やっぱりコンテンツから入る辺り、鳥嶋さんは、漫画雑誌をずっとやってきた人だなと思いますね。

――ただ、普通の漫画編集者だったら漫画家を連れてくる程度だと思うんですが、そこで『クロノ・トリガー』をぶち上げてしまうのが、なんとも鳥嶋さんらしいというか……。

鳥嶋氏:

でも、当時の僕は漫画雑誌でやれることは、ジャンプ編集部で全てやり終えたと思っていたから。

僕の中では、ジャンプを表1から目次まですべて変えてみせるという目標があってさ、巻頭でゲーム特集をして、グラビアもやった。後ろの方の読者ページも、さくまさんたちのコーナーに変えた。もちろん真ん中の漫画も、鳥山さんや桂さんとやった。そうなると、もう漫画でやることは残ってないな、という気分だったんだよね。

佐藤氏:

なるほどね(笑)。でもさ、『クロノ・トリガー』の実際の製作はどういう形で進んだの? だいぶ大変だったと思うけど。

鳥嶋氏:

まず、坂口がさっきの『ウィザードリィ』と『ウルティマ』の良いとこどりみたいな感じで、『ドラクエ』と『FF』の世界観を一緒にしたいと言いだしたの。それで目をつけたのが、「剣と魔法があるけど、メカもある」という世界観ね。それにタイムスリップの要素を付け加えて、まずはスクウェア側から提案が持ち込まれてきた。

――実際に率いたのは、坂口さんたちですよね。沢山のプレイヤーがいて、だいぶ苦労されたんじゃないかと。

鳥嶋氏:

だって、堀井雄二さんなんて、スクウェアにとって異分子だもん。たぶん、あの主人公はスクウェアのゲームで唯一しゃべらないキャラクターなんじゃないの。

実際、彼らはかなり堀井さんに気をつかっていて、合宿場所も「全日空ホテル」だったからね。堀井さんは今でも、当時を思い返して「こんな豪華なところでやっていいんだろうか」と恐縮したと話すくらいだから(笑)。


ただね、最初は企画だけ坂口が立てて、実作業は別の社員に任せていたんだよ。当時の坂口はスクウェアが拡大期で、クリエイターのスカウトだとかで忙しかったからね。でも、出来上がったロムを見たら……なんかね、もう一つという出来なんだよ。

――じゃあ、ボツに……?

鳥嶋氏:

うーん(苦笑)、その担当も妙に性格が良い人で、僕も文句を言いづらいタイプだったこともあって「まあ仕方ないかなあ」と思って、ひとまず鳥山さんに見せに行くことにしちゃったんだよね。


ところが、新幹線で鳥山さんの家に着いたら、坂口から突然電話がかかってきて、いきなり「鳥山さんに見せました?」と聞いてくるの。「いや、これからだけど」と答えたら、坂口が「じゃあ、見せずにすぐ持ち帰ってください。これはダメです。僕が全面的に入って、最初から作り直します」と言うんだよ。それから、すぐに坂口は泊まり込みで作り直し始めた。

一同:

おおおお。

――カッコいい(笑)。

鳥嶋氏:

それを聞いたときに、「こいつ、信用できる男だな」と思ったね。いや、それまで信用してなかったわけじゃないんだけど(笑)。

佐藤氏:

それにしても、『クロノ・トリガー』はメディアが変わるたびにリメイクされてるよね。

鳥嶋氏:

今でもずっと長く売れてる。きっと何か人の琴線をくすぐるんだね。あのゲームは非常にオーソドックスな作りにしたのが勝因だと思いますね。ゲームとしての手触り感が抜群に良いんですよ。

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